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01.佐藤卓己「“NHK青年の主張”における幸福感の変容」
日時:2009年11月28日(土) 午後2時~4時
参加費:7,500円(事前申し込み) 
定員:7人
会場:京都市伏見区桃山水野左近東町76 京阪・近鉄「丹波橋」徒歩10分、(株)リブアート内

●ゼミナール概要

「青年の主張」の文化史 「NHK青年の主張」といっても、30歳代以下ではこの番組を知らない人も多いだろう。私と同じ40歳代は「タモリがネタにしていたアレですね」。さらに若いと「とんねるずがそんなCD出したかな」。学生に聞くと、「SMAPの〝未成年の主張〟と関係ありますか」と逆に質問される。 正式名称《NHK・青年の主張全国コンクール》は、一九五四(昭和29)年に始まった。高度経済成長がまさに始まろうとしており、高校進学率は50%を超えたが、なお集団就職の時代である。勤労青年を中心とした入賞者による全国大会は長らく「成人の日」にテレビ中継され、皇太子ご夫妻が臨席する国民的番組の一つだった。 しかし、1980年代には「お笑いネタ」として扱われるようになり、1990年に《青春メッセージ》と改名され、2004年には番組も打ち切られた。 この番組を1960年代末に見た少年(私)は、そこで語られる「ちいさな希望」を直視できなかった。この勤労青年たちを「暗い」と感じたのである。逆にいえば、当時も確かに存在した「格差」を直視させる番組だったわけである。 しかし勤労青年の修養主義的「主張」は、大学進学率の上昇とともに変質していった。1972年に最優秀賞に選ばれた東京地方代表・横田邦子「平和のためのかけ橋に」が転換点だっただろう。少女時代のブラジル滞在、奨学金によるアメリカ留学の体験を語る上智大学生は、30年後の2002年日本政府特命全権大使としてジュネーブ軍縮会議で議長を務めた。小泉チルドレンの猪口邦子・元衆議院議員である。 実際、彼女の優勝の3年前、男女の高校進学率は並び、今日まで女性優位が続いている。高校進学と並行した一億総中流意識の高まりは、青年層の貧困問題を見えなくしていった。こうした状況では「ごく普通」の勤労青年が引け目なく応募することは難しくなり、特別な障害や被差別体験など誰もが納得できる「政治的正しさ」が求められるようになった。 そのことが、この番組から「ささやかな幸福観」を感じ取っていた一般視聴者の番組離れをもたらしたと言えるだろう。また、この「政治的正しさ」に対する反発が、タモリやとんねるずの「笑い」の支持基盤でもあったのではないか。 今日の青年文化を語る際、「格差社会」や「ロスト・ジェネレーション」が決まり文句となっているが、その歴史的系譜を一つのメディア・イベントから再検討してみたい。

●佐藤卓己【プロフィール】

1960年広島市生まれ。1984年京都大学文学部史学科卒業。86年、同大大学院修士課程修了。87-89年 ミュンヘン大学近代史研究所留学。89年京都大学大学院博士課程単位取得退学。東京大学新聞研究所・社会情報研究所助手、同志社大学文学部助教授、国際日本文化研究センター助教授を経て、現在―京都大学大学院教育学研究科准教授。専攻―メディア史、大衆文化論。【著書】『「キング」の時代 国民大衆雑誌の公共性』(でサントリー学芸賞受賞)、『輿論と世論 日本的民意の系譜学』、『ヒューマニティーズ 歴史学』など多数。
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